複雑性トラウマ(?)に精神医学は対応できない???

複雑性トラウマ(?)に精神医学は対応できない???

SNSの広告の話です。

大袈裟なものや誇張されたもの等も多く見かけますが、さすがに

「それはないだろう」

という位酷いものを見つけました。

それが私の専門領域の「トラウマ」に関する内容だったので、さすがに

「看過できない」

と思い記事にした次第です。

問題の広告の一番問題になる部分を意訳したのが、タイトルです。

複雑性PTSD(CPTSD)の事だと思いますが、要は「複雑性PTSDは医療では対応できないが、その講義を受けるとあなたも対応できるようになります」という胡散臭いことこの上ない内容です。

ここで問題となるのが

1.精神医療では複雑性PTSDの治療法がない

2.その講義を受けると素人が代わりにできるようになる

と2つも嘘をついている事です。

そんな訳ないだろ!

って事で以下、解説になります。

医療機関のカルテにはWHOのICDの分類を使います。

現在、国内ではICD-10が使われています。

一方、海外では数年前からICD-11が使われています。

この数字がバージョンになりますので、日本ではICDの10版が、海外では11版が使われている事になります。

何故国内では古い第10版を使用しているのかといいますと、日本語版がまだ発行されていないからです。

複雑性PTSDは、実はこのICD-11から新しく加わった診断ですので、専門職の間では当然、理解していますが、そもそも現時点では国内では正式には複雑性PTSDという診断が無いのです。

「複雑性PTSDという診断が無い」を「医療が対応できない」と変換している部分に悪意を感じます。

また、海外では既に複雑性PTSDがある訳ですから、対応できるように専門職は学会や専門研修を通してそれらの知識や技法を学んでいます。

例えば、トラウマ治療の第一人者である金吉晴先生が所長を務めておられる国立精神・神経医療研究センターの主催での「PTSD(心的外傷後ストレス障害)対策専門研修」が厚生労働省の事業として毎年開催されています。

ちなみに私も昨年度、全コースを修了しました。

つまり

医療が対応できないなんてありえない

訳です。

2.その講義を受けると素人でも複雑性トラウマに対応できるようになる

ICD-11での複雑性PTSD(CPTSD)の診断基準で重要なのが、「命の危機を感じるような体験」の有無です。

逆に言うなら「命の危機を感じるような体験」を伴わないと複雑性PTSDという診断がされる事はないという事です。

そのような患者を素人が対応できる…

そんな訳ないだろ!

って事は誰でも分かる事です。

そもそもPTSDとは何か?向精神薬とは?併存する事のある精神疾患は?など知らない訳です。

PTSDの患者に対してトラウマの原因究明が治療の第一選択でない事は専門職の間では常識です。

以前に「トラウマ解消セラピー」なるものをやっているセラピストが言っていた一言が衝撃的でした。

「専門職が逃げてるから、私がやるのです。」

それ、

逃げているのではなく、患者さんに余計なリスクを負わせないようにしているだけなんだけど…。

PTSDの患者さんにトラウマの原因究明をまともな医師は推奨しないでしょう。

という事は、医療機関との連携もないので、万が一の時は逃げられて終わりという事です。

残念ながら月に何度かは、その後始末ともいうべき対応をしてます。(素人同然のセラピストによって悪化させられた方のケアです。)

また、

「〇〇を解決できる唯一の方法」や「〇〇を治せる唯一のセラピー」などと謳っているセラピストにも注意して下さい。

「唯一の」とは聞こえがいいですが、

=エビデンスが無い、そのセラピストの思いつきという意味です。

そもそも学会や専門家研修で認定されたセラピーはエビデンスがあるから認定された訳で、

「唯一」という事は効果測定等が全く行われておられず、そのセラピストが思いつきでやっているだけで、箔を付ける目的です。

ろくに効果があるか分からないものを思いつきで現場で投入なんてありえないです。

相談だけならまだしも、「治せる唯一のセラピー」となると医師法違反ですので、お気をつけ下さい。

この記事を書いた人 Wrote this article

鷹宰 葵 鷹宰心理療法所:所長、公認心理師、催眠療法士(ヒプノセラピスト)、公認心理師実習指導者、ストレスチェック実施者、両立支援コーディネーター

精神力動論的立場。 専門はPTSD、複雑性PTSD、アディクション(依存症)、パーソナリティ障害、解離性障害、機能不全家庭、アダルトチルドレン、HSP、性格因等のメンタライゼーション的なパーソナリティへのアプローチ(精神力動アプローチ)。 心理学、精神医学、スピリチュアルに基づいた時間をかけた丁寧なカウンセリング・セラピーが信条。 琵琶湖の畔で一人気ままに活動中。 たまに医療領域にも出没。